不凍タンパク質・不凍多糖とは

 不凍タンパク質・不凍多糖とは

コオリカマス

図1.コオリカマス(市場魚介類図鑑より)
ノトセニア科コオリウオ属

不凍タンパク質(antifreeze protein;AFP)は、1969年に南極海に生息する魚(ノトセニア科)(右図1)の血液内に不凍糖タンパク質(AFGP)として存在することが発見されました(DeVries, AL&Wohlschlag, DE. Science 163 , 1073–1075 (1969))。それ以来、多くの寒冷地に棲息する生物種(魚、軟体動物、植物、昆虫、カビ、キノコ、地衣類、細菌、酵母などの微生物)からさまざまな構造や機能を有する不凍タンパク質の存在が明らかにされてきました。

「不凍タンパク質」の名称は、魚血液及び体液中の凍結温度が、南極海の海水の凍結温度より低下する現象から付けられました。しかしながら、この名称だとAFPは全く凍らないとのイメージが強く、勘違いする場合が多い。そのため違う名称で呼ぶ研究者も多く、ice-binding protein, ice active protein, thermal hysteresis proteinなどと記載している論文もあります。このような名称で論文検索が必要です。

1.多くの生物に存在する不凍タンパク質

多くの生物種から多様なAFPがこれまでに発見されているが、その構造は生物種によって異なっている。実際には、発見されている生物がAFPの機能を利用して、低温、凍結耐性を獲得している場合もあるが、我々の研究室の検索の結果では、たまたまそのような機能を示す物質も確認できている。そのために活性が確認できているAFPの生物間の構造はばらばらで、特にアミノ酸配列構造が異なっている。

魚由来AFPの5つのグループ

表1.魚由来AFPの5つのグループ

そのうち、最初に発見された魚由来のAFPは、AFGPも含めて大きくその構造の違いから5種のグループに分類できること(表1)が判明している。これら魚AFPの構造は、グループ毎に共通性があり、立体構造において氷に結合する面が存在している。

不凍タンパク質は、これまでに多くの植物において検索が行われ、下図のような植物に分布されていることが一部明らかになっています。

不凍タンパク質は、これまでに多くの植物において検索植物において検索

Urrutia ME et al., Biochim. Biophys. Acta., 1121,199-206 (1992)のデータを改良.

 

2.不凍タンパク質の機能について

氷結晶は、水分子同士がクラスターを形成し、六角形構造を保った結晶です。

不凍タンパク質の機能について

図2.氷結晶の結晶構造

不凍タンパク質の氷結合面は、4℃付近になると水分子が配位し、水和状態になっており、微小な氷結晶が凍結するとともに、同時に凍結して、氷結晶に結合した状態になります。また、氷結晶の結合面の反対側は、疎水性部分を有しており、水分子が結合しにくい構造になっています(図3)。

不凍タンパク質の氷結晶の結合面は、主としてプリズム面であるので、結合した氷結晶の成長時の氷形態は、主としてクラスター構造(六角形)と似た状態になります(図4)。

 

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図3.水和水の二重機能


図4.不凍タンパク質が氷結晶に結合する箇所

図4.不凍タンパク質が氷結晶に結合する箇所

プリズム面への結合が強ければ、氷結晶の成長はa軸方向にできなく、C軸方向への成長が起きて、氷結晶は針状やプリズム状の結晶になります(図5)。この氷結晶の形態変化もサンプル中にAFPが存在するかどうかを判断出来る指標の一つです。

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図5.様々な生物由来のAFPの氷結晶形態抑制

3.氷再結晶化抑制活性(RI活性)の確立

一般に、多くの研究者は、サンプルと60%(w/v)ショ糖溶液を1:1に混合し、図7の写真の温度制御付顕微鏡システムを用いて0分と30分での画像を撮影し、図8に示した温度制御で測定を行いました。この方法はシュークロースサンドイッチ法と呼ばれています。

図7.氷結晶観察用の顕微鏡システム

図7.氷結晶観察用の顕微鏡システム


図8.活性測定時での温度制御

図8.活性測定時での温度制御


図9 実際のAFPサンプルを同活性で測定した際(マイナス6℃、30分)の氷結晶

図9
実際のAFPサンプルを同活性で測定した際(マイナス6℃、30分)の氷結晶


protein-conc

protein-conc

従来、この温度制御での測定方法を用いて、図9の画像を見た目のみでRI活性の有無を確認しており、魚由来の不凍タンパク質の活性との比較によって評価しているだけでした。しかしながら、この方法では品質管理が行えないことから、RI値として数値化しました。これにより、右図のような検量線(ワカサギ由来)を作成することが可能になり、活性の比較が容易になしました。
この方法を確立することによって、氷再結晶化抑制活性を指標にして、新たなRI活性を有するタンパク質のスクリーングができるようなるとともに、この値の品質管理ができるようになり、実用化に大いに貢献しました。

 

4.不凍タンパク質の実用化について

氷再結晶化抑制活性を有するカイワレ大根由来不凍タンパク質は以下のような特徴を持っている。
(1)年間を通じて工場生産が可能
(2)熱安定性がよい(80℃、30分処理)
(3)畑で栽培された大根葉には存在しない新しいタイプの氷再結晶化抑制タンパク質であり、より活性がよい(「特開2011-231089」現在、海外特許も出願中)
大根葉には存在しない新しいタイプの不凍タンパク質とは、分子量の異なった2つのペプチド(9,000と4,000) で構成されたタンパク質であり、種子中に貯蔵タンパク質として存在しているため、成長後に食す大根には存在せず、カイワレ大根にのみ存在します。これが、氷再結晶化抑制活性の重要な機能を果たしていることを発見しました。
現在このタンパク質含有エキスは、㈱カネカより‘カネカ不凍タンパク質 ’として冷凍食品品質保持剤として販売されています。サンプル提供開始(カネカ不凍タンパク質)後、2012年3月に冷凍麺に初めて採用されました。現在では、冷凍食品(業務用および家庭用)で50品目(2014年8月までに)まで利用されています。
しかしながら、不凍タンパク質は高温処理に比較的弱く、酸性下でも活性が低下するとい性質を持っています。そのため、一部の冷凍食品への応用が困難な場合もあります。
詳しくはサイトhttp://www.kaneka-finefood.com/about/を参考にして下さい。

5.不凍多糖とは

高い凍結耐性を有した甲虫Upis ceramboides

高い凍結耐性を有した甲虫Upis ceramboides

不凍タンパク質は、これまでに多くの生物から発見されており、魚、ガ、トビムシ、線虫、甲虫の幼虫、ゴキブリ、地衣類、植物、糸状菌、細菌、酵母などから分離精製され、その構造や性質が明らかにされてきました。しかしながら、その研究の一環で、タンパク質分解をするプロテアーゼ処理後でも活性を維持している生物種のサンプルが発見されました。Walters KR,Jrらは凍結温度を低下させる活性(熱ヒステレシス活性)を示す非タンパク質性の高分子化合物を発見しました(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 20210-20215 2009)。その物質は、アラスカに生息している高い凍結耐性を有した甲虫Upis ceramboides(右図)から発見されました。
この非タンパク質性高分子化合物は、キシロマンナン脂質であり、キシロースとマンノースが1:1にβ-1,4結合した多糖が基本骨格です。この多糖に脂肪酸が結合することによって、高い熱ヒステレシス活性を示しています(3.70.3℃、5 mg/ml)。
その後、Waltersらは、植物1種、昆虫6種、カエル1種がこの物質を生産し、凍結耐性を得ていることを明らかにしました。(J. Comp. Physiol. B, 181, 631-640 2011)。
2009年のWaltersらの論文が出た時、キシロマンナン多糖骨格が氷結晶に作用する可能性があるので、この物質の糖鎖構造とは違うキシロマンナン骨格でも同じように活性を示す可能性があると予測しました。そこで、文献検索したところ、硫酸化されたキシロマンナンを有する海藻(Chondrophycus papillosus)やキノコ(エノキタケFlammulina velutipesと霊芝Ganoderma lucidum)に存在していることが判明しました。それまでに我々は、エノキタケが低温馴化(4℃)に晒した時に、培養菌糸は培地中に不凍タンパク質に研究を進めていました。この不凍タンパク質はこれまでの他の生物種由来の不凍タンパク質の氷再結晶化抑制活性よりも著しく高いことを明らかにしていました。アイスクリームなどへ応用が期待されましたが、30℃で失活してしまうという致命的な欠点があったためにこのタンパク質の工業化を断念しました。エノキタケはキノコの中で最も凍結耐性が高いという情報を基に、エノキタケのキシロマンナンに関する研究を開始しました(2010年~)。キシロマンナンは、エノキタケの細胞壁の構成成分であり、基本的な抽出方法はSmiderle FRらの方法に従って抽出、分離を行いました。その結果、キシロマンナンは分子量24万~31万であり、キシロース:マンノースの構成比が1:2であることがわかりました。この精製品の熱ヒステレシスは、0.070.01℃であり、ほとんど皆無でした。しかし、氷再結晶化抑制活性は存在し、カネカ不凍タンパク質であるカイワレ大根由来AFPとほぼ同じ活性のサンプルを調製することは可能でした。
一方、不凍タンパク質の欠点である高温(左)及び酸性条件下(右)での活性についても検討を行いました。

不凍タンパク質の欠点である高温(左)及び酸性条件下(右)

不凍タンパク質の欠点である高温(左)及び酸性条件下(右)

その結果、100℃、30分処理でも活性が安定で、全てのpHでも安定であった。さらに、160℃以上のフライ条件下でも、揚げ物の物性に影響することも確認できました。
この不凍多糖の研究は、2010年8月より、有限会社一栄、富士ハイテック㈱、㈱カネカとの共同研究で行ってきました。この2014年10月中旬より、’カネカ不凍多糖 ‘として、本格的なサンプル提供が開始されています。