過冷却促進物質(抗氷核活性物質)とは

1. 氷結晶形成について

一般に、水は0℃で凍るとされていますが、全く異物のない純粋の水は、₋39℃付近で氷形成が起きるとされています。水が凍るのは、氷核が形成されてから、初めて水溶液中の水分子が氷結晶と変化するためです。-39℃付近で起きる氷核形成は、水分子が氷結晶の形に似たクラスター状態になる温度です。
この氷核形成には、‐39℃で起きる水分子が氷結晶クラスターとなる均一核形成と水溶液中の異物が氷核となる不均一核形成の2種類に分類されています。大部分の水の凍結は後者の核形成で起きています。

水の凍結曲線


図1.水の凍結曲線

図1に示したように。純粋水の凍結曲線の場合、氷核形成温度、つまり過冷却温度(A点)で核形成が起きてから、水の凍結が0℃で開始され、その水全体が凍結完了(B点)してから、形成した氷結晶温度は周りの設定温度に変化していきます。
この氷核となる異物は多様で、空気中、水中の無機物や有機物(アミノ酸の一部など)などに加えて、最も活性の高い核形成 (-2~‐4℃)を引き起こす氷核活性細菌が図1.水の凍結曲線生産する氷核タンパク質があります。氷核活性細菌は、霜害を引き起こす植物病原性細菌であり、Pseudomonas, Xanthomonas, Erwinia, Enterobacter属細菌の特定の細菌群です。この氷核活性細菌(Pseudomonas fluorescens)の細胞表層には図2に示したように細菌細胞表層に粒々の顆粒状のものが局在しており、それが氷核活性物質である。この氷核活性物質の主成分は氷核タンパク質です。また、熱交換器やフロントガラス表面に付着した異物(埃や無機物など)も核となって氷結晶の形成が起きます。この氷核図2.氷核活性細菌のSEM画像形成を阻害した場合、水溶液中では異物とみなされないので、過冷却温度(核形成温度)が低下します。この低下によって、その温度より高い温度で水を保存した場合、水は未凍結で維持できます。しかし、過冷却状態の水では、ほんの少しの振動によっても氷核形成が起きてしまいます。

図2.氷核活性細菌のSEM画像

図2.氷核活性細菌のSEM画像

 

2.自然界及び天然物の過冷却促進物質(抗氷核活性物質)

過冷却促進物質の検索

過冷却促進物質の検索

これまでに過冷却促進物質(抗氷核活性物質)についての研究はいくらか報告があります。例えば、酵素修飾したゼラチンEMG-12の他に、我々の研究室では、香辛料のクローブの精油であるオイゲノールやヒノキの成分であるヒノキチオールなどが霜害を引き起こす氷核活性細菌の氷核物質に対して阻害活性を示す。これら2つの化合物の共通性は芳香族化合物であり、お茶畑の霜害防除にタイヤを燃やしたり、木酢液をまいたりしたのは理にかなっています。しかしながら、これらの化合物の生産性やコスト面などから、過冷却促進物質の実用化にはいたっていません。そこで、我々の研究室で、食品加工廃棄物よりヨウ化銀を核

としてアッセイ系を用いて、抗氷核活性物質の検索を行った。その結果、表1に示したように複数の食品加工廃棄物の熱水抽出物に活性を確認し
ています。そのうち、実際に粒あんとして食されている部分であるこし餡粕エキスおよび食品加工廃棄物で廃棄量が多いコーヒー粕エキスの成分の研究を進めています(表1.過冷却促進物質の検索)。

このうち、餡粕エキスの主成分はペプチド系の化合物であり、現在同定を進めています(登録第5322602号)。また、コーヒー粕エキスの主成分はポリフェノールなどであり、既に特許も出願しています(特開2015-38170)。

過冷却促進物質の応用性は広く、 その可能性はヨウ化銀などの無機物の核形成も阻害するからです。不凍タンパク質および不凍多糖とともに併用すれば、図3に示したような用途の可能性があり、順次研究室でもその用途に関する基礎研究も進めています。その基礎研究で、医療用のために同活性を有する物質も発見しています。

不凍タンパク質と過冷却促進物質の用途

図.3不凍タンパク質と過冷却促進物質の用途